「……珍しいな、天が出掛けたいなんて」 「ふふ。天、苦しくない?」 「大丈夫」 「べつにこんな冷える日じゃなくても良かったんじゃないか?」 「ね。晴れた日にしたら良かったのに」随分と冷え込みはじめた睦月のある日、天は楽と龍之介が揃ってオフだとわかると出掛けたいと申し出た。 どんよりとした曇り空。行き先は、陸の眠る墓。「……今じゃないと、だめなんだ。これ以上、ボクが動けなくなる前に」 「っ、天、」あからさまに龍之介が動揺したのが伝わって、ほんのすこし苦笑した。楽も思いきり龍之介の太腿をはたいた。「龍の車は車椅子が載せられるような造りじゃないでしょう。歩ける今のうちに、だよ」 「……そんなの、買い替えるのに」 「……ありがとう。でも、自分の足で歩きたいから」ここで会話を強制終了させた。妙な沈黙が車内を支配する。 どんよりと落ち込んだ空気を一掃させたのは、明るい声だった。『みなさん、こんにちは!IDOLiSH7の和泉三月です!今日は曇天の空模様ですが、いかがお過ごしでしょうか?』つけていたカーラジオから流れ込んできた明るい声に、天はふふ、と笑った。 いつだって三月は場を明るく和ませた。それは陸が病床に臥せっていたときも、天のときも。あの笑顔と元気さはそうそう真似出来ないのに、本人はまるで意識せずとも振る舞ってみせるから不思議だ。『今日はですね、和泉三月セレクションで音楽をお届けします。……何笑ってるんすかスタッフさん。……え?……ちょ、ネーミングセンスないとか言わないで!』「……ふっ」 「あっはは!こら楽、三月くんに言っちゃうぞ」 「龍だって笑ってんじゃねーかよ」 「……いや、これは誰が聞いてもセンスないでしょ」 「やめてよ天まで、運転中に笑わせないでよ」 「ボクじゃなくて和泉三月のせいでしょ」『……あーもう、このラジオ聴いてくれてる人は笑ってないよなまさか!……笑ってるかも?おーい!』「和泉兄、ここにいるぞ笑ってるやつが」 「やめてって楽ほんと、……ふふっ」 「……おっかしい。人のラジオ聴いてこんなにじわじわ笑えるの初めて」『キリないからスタッフさんへのツッコミは後でにして、曲!いきましょう!……えっとですね、俺のライバルであり尊敬するアイドルであるTRIGGERの曲を聴いてもらおうかなって』「おっ、……まさかの俺たちか」 「……ボクたちが聴いてるとは思ってないだろうね」 「ね。なんの曲かなあ」『正直TRIGGERの曲はぜんぶめちゃくちゃかっこいいし、一曲になんて絞れないんですけどね。ちょっとワケありのあれを聴いてもらおうかなと思います!──それではTRIGGERで、NATSU☆しようぜ!』「……あ、」