とある昼下がり、紗夜が四限を終え仕事のために生徒会室へ向かおうと廊下へ出たその時、横から聞き慣れた声が飛んできた。「さーよちゃん! 今日も一緒にお昼食べよ!」 その声の主は紗夜の恋人である丸山彩だ。数カ月ほど前から交際しており、毎日ではないもののよく昼食を共にしている。 そして紗夜に向かって掲げられた両手には何故か弁当箱が二つ。「彩さん……? 何故弁当箱を二つも持っているのですか?」 普通ならば疑問を覚えるのも当たり前だろうが、この女は本当に察しが悪いようだ。「もー、紗夜ちゃんったら……これから昼休みにお仕事あるんでしょ? どうせまたお昼食べないつもりなんでしょ」「え、えぇ。そのつもりでしたが……」「ダメだよ! ちゃんとご飯食べなきゃ! 紗夜ちゃんのことだからそうなんだろうなーって思って張り切って作ってきたんだよ!」 誇らしげに胸を張る彩に、思わず紗夜は息を漏らした。「そうやってあなたはいつも世話を焼くのですね」「うぇえ!? ごめんね、余計なお世話だった、かな……?」 紗夜は、少し寂しげに俯く彩をみて思わず笑みがこぼれてしまった。「そんなわけないでしょう。貴女の気遣いにはいつも感謝しています。ありがとう、彩さん」「よかったぁ……! 紗夜ちゃんに嫌われちゃったのかと思ったよ~」 と、先程とは対照的に目を輝かせる彩の後ろには、勢いよく振られる尻尾が見えるようだった。「じゃあ行きましょうか」「うん!」 相変わらず犬みたいで可愛い人、だなんて思いつつ用のある生徒会室に向かうことにした。