腕にひんやりとした感触が伝わる。シーツの上? 「あ…!目が覚めたんですね!」 「……え?」 ふわふわの長い髪。透き通るような白い肌。ぱっちりとした二重のお目目。桜色の頬。ぷるっとした唇。お人形さんみたいな女の子と目が合う。同じ高校の制服を着ている。 「何…?え…?」 状況が理解出来ず、声もまともに出ない。 ひとまず寝ている体勢なのだけは察して、ゆっくり起き上がる。 水色のネット付きカーテンに覆われた空間。薬品のにおいがする。 「ここ…保健室?」 「はい。今、先生がお手洗いに行っていて…」 「お手洗い……あっ」 先程の出来事を思い出す。 トイレで水浸しにされ、発作を起こし、まともに息が出来なくなった。絶望に包まれたあの時間を想起し、身体が強張る。 「だ、大丈夫ですか?」 急に固まってしまった陸を心配そうに見つめる。 「あ、はい…。えっと…あなたは一体…」 「あ、すみません!私、小鳥遊紡と申します。陸さんと同じ2年生です」 立ち上がってペコリと頭を下げる。 初対面とはいえ、同い年相手に礼儀正しい子だなあと感心する一方で、なぜ面識のない彼女がここにいるのだろうという疑問が湧く。 「授業中トイレに行ったら、陸さんが倒れていらっしゃって…急いで先生方に連絡して、保健室まで運んで頂いたんです」 「そう…なんだ…。授業は?」 「さっき終わって、今はお昼休みの時間です」 「お昼は、食べたんですか」 「ええ。さっき食べ終わって、こっちに来ました」 「へぇ…。あ、ありがとうございました」 「とんでもないです。それよりも、具合はどうですか。どこか痛むところとか…」 「大丈夫です」 「寒くないですか」 「大丈夫です」 冷えていた身体も、眠っている間に温められたようだ。 身に付けていたびしょ濡れの制服はジャージに替えられていた。名前の刺繍が、自分のものではない。卒業生が寄贈した貸し出し用に使われているものだろう。 「むしろ、ごめんね。びっくりさせちゃったよね…」 日常的な空間の中に広がる非日常的な光景に驚かされた事だろう。怖い思いをさせたかもしれない。申し訳ない。 「どうして謝られるんですか。それよりも、さっきから大丈夫大丈夫と言ってますけど…大丈夫に見えません」 そっと手を掬われ、握られる。ふわっと優しい香りがした。温かい。 「心はどうですか。深く傷ついていませんか」 「え…?」