天と大和が怒鳴りあっていると扉がおもむろに開き、マネージャーがすっと顔を出した。「皆さんお待たせしました!遅くなってすいません!今から陸さんのいる病院に向かいます!」 「お、マネージャー!こんな時間に呼び出しちゃってごめんな」 「いえ!陸さんが大変だとお聞きしたので!急いで向かいますね、乗ってください!…九条さんも行きますよね!」 「…うん」マネージャーの登場ですっかり毒気を抜かれた天は素直に車に乗り込むみんなに続く。そしてマネージャーは皆が乗り込むのを確認すると急ぎ目で陸のいる病院へ向かった。いつも陸を迎え入れている病院は寮から近く、交通の便良いため陸は最近、定期検診をしっかりと受けていた。それが良かったのだろう。陸の体は昔から病弱だったのもあるが、家系的にも問題があり小さい時から病気になりやすかった。ただの風邪でさえ、発作と高熱で入院している程で、陸は家よりも病院にいる時間の方が多いくらいだった。その為、こうして寮にで暮らすことは小さい時からの夢であり、病院で寝泊まりしないというだけで、夢心地だった。だから、この病室に帰ってきてしまったときの絶望感は半端でない。消毒と薬の匂いが充満した気持ちの悪いこの部屋が大嫌いで、なんど逃げ出そうとしたことか。陸は7月の初めに定期検診を行った。いつものような機械的な検診で今回も前回と同じように発作止めの薬をもらって終わりだと思っていた。しかし、今回の検診結果を言われた時陸は正直絶望した、自分はなぜこんなにも壁が多いのだろうかと。神は自分に死ねと言っているのか。医者によると8月のライブはギリギリ、体が持てば行えるとのこと。しかし無理は禁物だ、そうしっかりと釘を打たれた。いや、アイドルに無理は付き物で避けては通れない道のひとつでもある。陸はアイドルが好きだった。みんなを笑顔に出来るこの仕事はまるで天職だ。自分の歌声でファンは喜んでくれる。そのためなら自分は壊れてもいい、歌えなくなるその時まで踏ん張ってやる。そう心に決めていた。双子の天にも出会い、色々あるが仲良くしているつもりで、メンバーもたくさん喧嘩するけど楽しくやっていると思っている。こんな生活、こんな時間がとても好きだった。彼らのためにも生きねばならないと気付かされてから、ファンを喜ばせることも、彼らやファンを傷つけないように生きることも、しっかりと理解もしていたし、気をつけていた。 気をつけていたはずなのに、神様は意地悪で陸に次から次へと試練を与える。陸は神を信じなかった。