ソラにはあの件を公表するつもりはない、ということだろうか。だが、それならいったい何のためにメルテの村にやってきたのか、という疑問がわきあがる。 解毒の実と体力スタミナ回復薬ポーションと聖水。ソラが提供したという種々のアイテムをそろえるには、けっこうな量の金貨が必要になったはず。何の目的もなしにそれだけの大金を投じるとは思えない。 ソラは明らかに目的があってメルテの村を訪れている。だが、イリアにはそれが何なのかが分からない。 不気味だった。考えて、考えて、結局考え疲れて、こうして自室で脱力してしまうくらいに不気味だった。「……そういえば、あいつとラーズが決闘するときも、同じようなことを考えていたっけ」 あの時は、レベル一であるソラがレベル十六のラーズ相手に、どうして勝ち目のない戦いを挑んだのかが分からなかった。 ミロスラフはそれを「高価な武器を手に入れたことによる過信」と断言したが、今となってはそれが間違いだったとわかる。 何があったのかは分からない。だが、ソラは確実にレベルを大きくあげている。ラーズを圧倒し、ワイバーンを手なずけ、オークの集落を単独で殲滅できてしまうほどに強くなっている。 こうなると、眉唾まゆつばだと思っていた数々の魔物退治の話もがぜん信憑性しんぴょうせいが増してくる。「……いったい、何があったの……ふぁ…………」 考えているうちに、だんだんと瞼まぶたが重くなっていく。 宴の席で周囲にすすめられて一口ひとくち二口ふたくち飲んだ酒が、今になって効いてきたのかもしれない。 イリアは小さくあくびをした後、そっと目を閉じた。 ややあって、その口からすぅすぅと寝息がこぼれ始める。夢の中でも解きえぬ謎を憂えているのか、ほんのわずか、眉間にしわが寄っていた。 ――イリアにとって、ソラという人間は遠い存在だった。あるいは薄い存在だった。 だが、それは過去のこと。 今となっては遠くもなければ薄くもない。 夢寐むびにも忘れない存在として、胸の底、頭の奥にはっきりと刻み込まれようとしていた。