『本体、折角つけたこの脚だけど……多分、砲弾を撃ったら衝撃で壊れると思うよ』 自走砲台型使い魔王は、【魔王の節足】を蠢かせてそう答えた。「一度目を撃つまで動くなら十分ですよ。 それで母さん、エドモンドって人の話はどうなったのですか?」「ええ、それがね……タレアさんもバスディアさんも聞いて。悪徳商人って訳じゃなさそうなんだけど……」 ダルシアが昼間にエドモンドから持ちかけられた話を説明すると、ヴァンダルーよりもバスディアとタレアが先に口を開いた。「何と言うか……昔の焦っている頃の私なら良い話に思えたかもしれないが……」「微妙な話ですわね。以前なら聞く価値もあったと思いますけれど。それと、そのエドモンドって方が思っているほど皆は喜ばなかったと思いますわよ」 グール達も、子供が出来るなら相手は誰でも良いと言う訳ではない。彼女達には彼女たちなりの好みが在る。そう、強さだ。 エドモンドがどんな客層をターゲットに狙っていたのかは不明だが、男性冒険者や騎士でもない限りグールの女性達の食指は動かない。戦闘能力の無い商人や、だらしのない酔っぱらいは男として見られない可能性すらある。 それにグール達は性に対して開放的だが、別にプロの娼婦と言う訳ではない。そのまま客の相手をさせれば、大小様々なトラブルが起きていただろう。「あと、モークシー伯爵とバッヘムさんの心労が凄い事になりそうです。特にバッヘムさんはバスディア達の正体を薄々察しているようでしたし」 テイマーギルドのバッヘムは、ヴァンダルーが申告した通りバスディアをグールウォーリアー、ザディリスをグールメイジとして判断して従魔用の首輪を渡した。 ただそれは、彼の経験や直感から二人がランク4や5とは思えないけれど、二人の本当の種族が何なのか彼の知識に無いから、ヴァンダルーの申告内容を否定できなかっただけに過ぎない。バッヘムがヴァンダルーを信用していなかったら、強引にでも申請を却下していた可能性もある。 ……その直後に偽装ヴィダ神殿と神聖娼婦にするためにグールを大勢町に連れ込むような事をしたら、流石に彼の許容量を超えてしまうだろう。「そうよね。でも安心して、話はちゃんと断って来たから。エドモンドさんは少ししつこかったけれど、護衛のロドリゲスって人が見る目のある人で助かったわ。 だから迷宮に閉じ込めたり、肉団子や肥料にしたりしちゃダメよ」「……御意」 グファドガーンがダルシアに短く答える。エドモンド達が、数日で不良衛兵のアッガーを総白髪にした迷宮行きを免れた瞬間である。