クリムトが驚いて絶句する。ラグナの言葉はクリムトにとってまったくの予想外だった。 慈仁坊じじんぼうがそうであったように、島外で活動する青林旗士のほとんどは第四旗に所属している。その部隊を動かしてクライアを助け出す、とラグナはいっているのである。 島外で働く旗士が多い第四旗は他の八旗から軽んじられているが、それでも八旗のひとつであることに違いはない。いかにラグナが宗家の嫡子であるとはいえ、簡単に動かせるはずはないのだ。まして、クリムトはまだラグナに対して何もいっていないのである。 これが示すことは、ラグナはクリムトの意向にかかわらず、クライアを救出するための行動を開始していたということ。おそらくは、昨日のうちから動いていたのだろう。 クリムトは言葉に詰まりながらも、ラグナに礼を述べた。「……ラグナ、その、すまな――いや、ありがとう」 クリムトに続いて、シドニーも軽やかに頭を下げた。「ラグナ、私からも感謝を。ありがとう」「同期を助けるだけだ、礼をいわれることではない」 涼やかに応じたラグナは、たしかに人の上に立つ者の度量を感じさせた。 と、そんなラグナの泰然とした姿に爪を立てようと試みた者がいる。祭さいである。「同期を助けるため、ねえ? 昨日はその同期の健在をきいて、ずいぶん取り乱していたのになあ、ラグナ?」「……とうにのたれ死んだと思っていた者が生きていたのだ。驚きもする」「驚いている、ねえ? 俺の目には焦っているように見えたがね。以前の婚約者が現れて、愛しのアズライトが奪われるんじゃないかって不安――ふが!?」 黄金世代の面々は、常に冷静沈着なラグナが、こと兄そらに関しては感情をむき出しにすることを知っている。 そこをつついて、ラグナの取り澄ました顔を崩してやろうとほくそ笑んでいた祭さいの言葉が唐突にとぎれた。 見れば、祭さいの頬を白い繊手せんしゅが思いきりつねっている。 いつの間にか祭さいの背後に移動したアヤカの仕業だった。