バン。大きな音を立てて客電が一斉に落ちた。 “引き金を引くのは、さあだれだ”字幕とともに、三人は飛び出した。大歓声のなか、舞台袖ではなおも緊張が走っていた。全員が天に注目している。 天の動きが鈍いのは誰の目から見ても明らかだった。しかし、プログラムを変えることはきっと許されないだろう。──ならば、無事に終わるよう、祈るしかない。一織はぎゅっと目を閉じて、天に向かい祈った。 お願いします。九条さん。どうか、さいごまで一緒に。……七瀬さん、来るなと、あなたからも言ってください。一曲歌い終わると、不思議と身体が軽くなった。……熱のだるさも、ない。「天、ドリンク」 「……ありがとう」汗が大量に噴き出していた。恐らく熱の影響だが、ただ一曲で。喉の渇きは異常だった。渡されたボトルの半分を一気に飲んでしまう。「天、あまり身体冷やさないようにね。まだまだ、これからだよ」こくりと頷いてタオルで汗を拭った。不思議と、笑いがこぼれた。……楽しい。 舞台ではIDOLiSH7が歌い、踊っていた。湧き上がってく思いをもっと届けたい。ヨロコビも、キミと、感動も一緒に、連れ出して。「……ねえ、楽、龍」 「あ?」 「なに?」酷なことと思う。けれど、願わずにはいられない。「ふたりに、お願いがあるんだ」生まれた意味を声に乗せるよ。運命が奏でる最上のキズナ。そわそわと、一織は舞台袖に待機していた。……まさか、こんなことになるなんて。「和泉一織」 「……う、はい」 「そんなに緊張しないでよ。……正直、ボクのほうが緊張するものじゃない?これは」ふう、と天はため息をついた。……本当だ。あの天が、緊張している? いま舞台にはRe:valeが立っておりMCで繋いでいた。相変わらずの夫婦漫才のような軽快なやり取りで、会場は笑いに包まれていた。どこにいてもこの人たちはファンを虜にする。長年トップアイドルの座を明け渡すことがないのは、こういうところだろう。実力も然ることながら、カリスマ性というのだろうか。一織には真似出来ない。 ちらりと天を見やる。……この人も、どこか人を惹き付ける魅力がある。見た目もそうだが、一挙手一投足に華がある。儚げな印象を持つこともあれば、獰猛な獣のような印象を持つこともある。……本当に興味深い人だ。 見られていたことに気づいた天は、一織をじろりと睨んだ。「……なに。ボクの顔、なにかついてる?」 「あ、いや。……ところで、九条さん」 「なに」 「……どうして、これ、引き受けて下さったんです」純粋な疑問だった。先ほど『緊張する』とまで言っていた。……ならば、どうして?「……さあ。ボクにもわからない」 「は?」 「……ただの、好奇心かな」暗転した舞台上に一織と天が立つ。そこにスポットライトがあたれば、たちまち大歓声に包まれる。「……おお、なんかこうして見ると、やっぱりりっくんとてんてん、兄弟なんだな」 「ふふ。そうだね」 「てんてん、楽しそー」 「……ねえ、どうして環くんは、これをやってほしいって言ったの?」あー、と言って環は頭をぽりぽり掻いた。「……ただの、こーきしん」 「……え?」 「見てみたかったんだ。りっくんの歌を歌う、てんてん」