魔物のランクアップが起こるには、レベルだけでは無くスキルも必要になる。例えば、あるブラックゴブリンがブラックゴブリンニンジャになりたいのなら、レベルを上げる事以外にも【忍び足】や【罠】等斥候職に必要となるスキルを獲得しレベルを上げておく必要がある、などだ。 だがファング達は今まで同格以上の魔物を倒して大量の経験値を得て、急速にランクアップしてきたため、スキルのレベルが低めだ。そのため、今日は自主訓練が割り当てられる事になった。「ガルルルル!」「ヂュヂュウ゛!」「ヂュゥゥゥゥゥっ!」「キィィィィィィ!」 ヘルハウンドのファングと鉄鼠のスルガが激しい肉弾戦を演じ、火鼠のマロルと濡れ鼠のウルミが毛皮に纏った炎と冷気をぶつけ合っている。「と、とても訓練には見えねぇ」「あれは、大丈夫なんだよな!?」 サイモンとナターニャがファング達の実戦さながらの訓練を見てそう慌てるが、問題無い。彼らには見えないが、レビア王女やオルビアがちゃんと見守っている。「あと、もう一人いたユリアだかユリアーナだか分からないが、あの人の姿が無いのが気になっていたんですが……」「ユリアなら大丈夫です。彼女はあなた達とは別の方法で頑張る事になったので、俺の家に居ます。 では修業を始めるので、サイモンはこれを付けてください」 ヴァンダルーはサイモンにそう言いながら、荷車に乗せて来た練習用の『腕』を彼に渡した。 それは一見すると全身甲冑の右腕の部分だけを外して、身体に装着するためのベルトをつけただけの代物に見える。「へい、分かりやした!」 それを受け取ったサイモンは、特に疑問を持たず約束した通りヴァンダルーを信じて身に着ける。「確認しますが、サイズはどうですか?」「ええ、ベルトの長さが丁度良くて……後、右肩の切り口にしっかりくっついて擦れない。まるで俺の右肩に合わせて調整したみたいだ。 師匠、これは一体いつの間に作ったんで!? まさか、前々からこうなる事を見通して……!?」「いや、そんな未来を予知するような真似は出来ませんから。昨日、家に帰ってから適当な鎧の腕の部分だけを使って、ちょっと調整しただけです」 昨日の治療で、ヴァンダルーはサイモンの体形を【完全記録術】で覚えている。それを基に【ゴーレム創成】で加工して、肩と接する部分はタレアと一緒に調整をし、『腕』を作ったのである。