ふと過ぎった思考に、慌てて首を振る。 違う。違う。 陸を置いて進むんじゃない。 陸と一緒に進むのだ。『いまさら・・・何を言ってるのさ』心のどこかで、声が聞こえた。 その声に、ビクリと体が揺れる。『一度は置いてきたくせに』違う・・・・・・『そうしてまた、陸を1人で置いていくんだ』 「違う!!」思わず声に出してしまい、いけない!と直ぐに口を塞いだ。 聞かれてしまったか…と少しだけ顔をあげて確かめると、2人はまるでスタッフたちの視界から天の姿を隠すようにして前に立っていた。「楽・・・、龍・・・」 「いいからもう少し休んどけ」 「本番の合図がかかったら、起こしてあげるから。とは言え、もう時間もないけど・・・」龍之介が小声でごめんねと呟くのに、龍之介のせいではないだろうと天は感謝をこめてその広い背中を信頼するように額を預けた。「今夜も行くのか?」楽がぽつりと聞いてくる。「もちろん」陸が、元のように歌えるようになるまで。 何日だって通ってみせる。「僕の歌を、陸に届けるんだ・・・」何度でも、何度でも。「無茶だけはすんなよ…」 「誰に向かって言ってるの?」 「・・・そうだな」それ以上、楽はなにも言わなかった。 今の天には、それが有難かった。(大丈夫・・・陸を信じよう。きっと戻ってくる…あの子は戻ってくる。だから・・・)「TRIGGERの皆さん、そろそろこちらにお願いします」 「はい」呼ばれて、天は思考を一旦留め、本番に意識を向けた。 けれど・・・・・・「?!」スタッフが慌てて動き出す。それどころか、スタジオ中にざわめきが走った。 信じられない事態が起きた・・・ 天の声が…出ない・・・陸・・・ 陸・・・ 聞こえる? ねぇ?陸になら僕の声が聞こえる? 届いてる? 陸・・・陸・・・陸・・・「り・・・く・・・」