「天」 「……ん」 「これ。……外れてんぞ」ライブも終わり、予想していたとおりになった。かつての陸のように、急速に体調が悪化した天は自宅で出来る限りの緩和療法を取り入れていた。酸素のチューブは欠かせない。 あのライブのあと、天は舞台袖に戻った途端倒れた。意識がなく、熱も高かった。すぐに病院へと運ばれ、詳しく検査させられた。医師がはじめに忠告していたとおりに脳への転移が認められ、もう時間の問題だと。腫瘍が視神経を圧迫していて天の視力は一気に落ちた。ぼんやりとしか周囲の風景がわからない。……いまも、声を聞かなければ楽が近くに来たことはわかっていなかった。 ああ、やっぱり。連れていってしまうんだな?……七瀬。 あれだけ落ちなかった食欲が急激に落ちて、ほとんど経口摂取が出来ていなかった。水分も摂れないから、点滴で補うしかなかった。どんどん衰えていく天を見て、楽も龍之介もいつがさいごになるのかわからないという不安な日々を送っていた。……天だって、怖いんだ。そう言い聞かせて、天と向き合う。「天、今日は身体拭くぞ」 「……ん」 「ふたりで、やるからね」うつろな目でふたりを見て、こくりと頷いた。同意するとき以外に、天の声を耳にすることはほとんどなくなった。もう、話すことすら出来なくなってきている。 前開きの服を開けて、片側だけ脱がせる。じゅうぶんにあたためたタオルで拭いてやると、ふっと天の表情がやわらかくなったような気がした。「あ、天、笑った」 「……ふふ」 「なんだよ。さっぱりするか?」 「……ん」