「日本語が分からないのかしら?離してほしければ選べと言ったの。」面倒だ、このまま折ってから警察に突き出してやろう。そう思った私は掴んでいる腕を一気に締め上げる。男性の腕がミシミシと悲鳴をあげ始めたその瞬間、男性が口を開いた。「わ、わかった!二度と関わらない!だから離してくれ!」その言葉を聞き、私は手を離して言い放った。「なら今すぐ消えなさい。次見かけたら容赦なく警察に突き出すわよ。」腕を開放された男性は、痛む腕を庇うようにしながら走り去って行った。「ふぅ…白鷺さん、お怪我はありませんでしたか?」「え、えぇ…ありがとう…」眼に涙を溜め、小さな声で白鷺さんが言う。肩は小刻みに震え、いつもの余裕がある白鷺さんはそこにはいなかった。それでも、涙を必死にこらえる彼女を見かねて私は声をかける。「今は私しか見てませんから…我慢しなくても良いんですよ?」私の言葉を聞いた白鷺さんは涙を溢れさせながら私の胸に飛び込んできた。「こわ…かった…。こわかったよ…!」苦しそうに泣く彼女の小さな背中を、私は安心させるように優しく撫でる。この小さな背中に彼女はいったいどれだけの物を背負っているのだろう。弱音を吐くことも、人前で泣くことも出来ず…女優として1人で戦ってきた彼女の、せめてもの心の拠り所になってあげたい…。そんな感情を抱きながら。翌日、私が学校に登校し、自分の教室へ向かうと私のクラスの前に白鷺さんが立っていた。「おはようございます、白鷺さん」「おはよう紗夜ちゃん。待ってたわ。」白鷺さんの言葉に私は首を傾げる。「待っていた?私に何か用ですか?」「ええ、昨日のお礼がしたくて。今日の放課後時間があるならお茶に付き合ってくれないかしら?」「あぁ、その事ですか。放課後は空いてますけど、お礼なんて結構ですよ。困っている人を助けるのは人として当然のことですから。」私の言葉を聞いて、白鷺さんがムッとした表情をする。白鷺さんのこんな顔初めて見た。取り繕っていない彼女の本当の姿。年相応で可愛らしいとまで思った。「それじゃあ私の気が済まないの。それに、人の好意は受け取っておくものよ?紗夜ちゃん?」引き下がってくれなそうな白鷺さんを見て私は折れた。「はぁ、分かりました。そこまで言うならお言葉に甘えさせていただきます。」