私がここで朝餉を残せば、乳母めのとらがまた彼を責めるかもしれない。食事が足りずに体調でも崩そうものなら、軒車くるまを別にされてしまうかもしれない。 そう思うと、味気ないのは変わらずともすべて食すことができた。 共に朝餉を終えると、彼は支度があるため先に席を立った。その際のやりとりはいつものように儀礼的なものだった。 残された私の傍らに、茜が膝をついて膳を下げる。その際に、私の顔をちらりと一瞥した。「お残しになられぬとはお珍しいこと」 普段から私は食が細い。彼女の言葉は当然だった。「……そうかしら」 私は言葉を探した挙句、短く返した。 茜が先ほどの彼とのやり取りに気づいた容子はないようだった。それだけでほっとする。「長い道中ですから、しっかりお召し上がりいただいた方が安心ですけれど」 なにか言いたげな眼差しにどきりしたが、彼女はそれ以上言わなかった。 あまり日頃と変わったことは仕出かさない方がいいのだろう。不審を買えば困るのは私だ。 そこではっとする。乳母めのとや乳姉妹ちきょうだいを謀たばかってまでして、私は何をしようとしているのだろう。 ――すべては彼との時間を守るため……? ……何故?