痛めた肘を押さえていると、両腕を縛るように掴まれる。 その間に、他の2人が掃除用具箱から何かを取り出す。 バケツとホース。そして蛇口から流れる水音が聞こえる。 「や、やめて!本当に知らないから…何をされても、知らないとしか言えないのっ…うわっ!」 投げ飛ばされるように個室に押し込められ、すぐさま扉を閉められる。 鍵は内側にあるが、外側に押して開ける扉のため、外側から押さえつけられればビクともしない。 閉じ込められた。その事実を認識して、絶望する。 「嘘吐きの言う事なんて…信じらんないっ!!」 バシャッ!! ドスの聞いた声と共に、頭上から水を一気にかけられた。 バケツ一杯分の水。髪も、服も、靴も、全部びしょ濡れになった。 呆然としていると、間もなくホースから新たな水を噴射される。 「冷たっ…!」 「ほらほらー、早くしないと風邪引いちゃうよー?」 「さっさと言った方がいいってー」 言おうにも、何も言える事がない。 もう一緒に暮らしていない事?養子になって出て行ったから、戸籍上の繋がりはなくなっている事?兄の事を良く思っていない事?何を言えば、納得して貰える? 逃げ場のない狭い空間で、身体がどんどん冷えていく。 「はっ……」 胸から喉にかけての違和感。どうしよう。発作を起こし始めている。 死に物狂いで扉に手を置く。 「お願い…開け…て…」 か細い息混じりの声は、水音にかき消され、届くはずがなかった。 「げほっ!ごほっ…うっ…あ…」 強い咳が出始める。すると流石に聞こえたのか、様子を伺うように水の勢いが弱まる。 「今どうなってんの?」 「開けてみる?」 外側からの圧力をなくした瞬間に、扉がガタンと開く。 内側から扉にもたれかかっていた陸の身体が、支えをなくして倒れていく。 「はぁっ…ああ…くっ…」 うずくまり、胸元を押さえ、必死に息をする陸の姿に、思わず肝を冷やす。 「ねぇ…なんかホントにヤバくない?」 「それ思った…」 「ひとまず離れよ!あたし達がやった事、誰にも言うんじゃないわよ!」 乱雑に用具を投げ捨て、バタバタと走り去っていった。