その途端、真弘は珠紀を置いたまま、一人早足になった。「って、ああ! 先に行かないでくださいよ!」珠紀は慌てて真弘の後を追いかける。「わかりました。なんでも言うことを聞きますから許してください。お願いします!」珠紀は、真弘の背に向かって叫ぶ――その途端、真弘の足が、ぴたりと止まった。真弘は振り返り、珠紀の顔をじっと見つめる。「……どうしたんですか?」「なんでもって、……【なんでも】、だよな?」真弘は確かめるように、ゆっくりと訊き返す。「わかってます。玉依姫に二言はありません。でも、1回だけですよ?」「……ちょっと待て。玉依姫のわりには1回ってケチくさくねーか?」「1回は1回ですよ……とにかく、なにをしてほしいか言ってください」「……」真弘は珠紀を見つめたまま暫く考え込んでいたが、不意に真剣な顔で言った。「じゃあ……させろよ」「え……!?」珠紀は、驚いて声を上げる。「だから、……させろよ。なんでも言うこと聞くんだろ?」「そ……れは……」こちらを見据える真弘の目があんまり真剣だったから、珠紀は思わず、怯えたように後ずさってしまった。「だ、だめですよ……こんな外で……」まともに真弘の顔を見れなくなってしまった珠紀は、俯いてきれぎれに呟く。「え、えっと……なんていうか、どうしてもイヤっていうのじゃなくて……あの、先輩がその気になってくれたのは……その、ちょっと嬉しいなって、思うのもあるんですけど、でもあの、やっぱり戸外ってのは……」珠紀は赤くなったまま、もじもじと指を絡める。「……ええと、どうしてもっていうなら、先輩のお部屋とか……」「なーに勘違いしてんだよ、お前……」照れたまま下を向く珠紀の頭に、真弘の呆れたような声が降ってきた。「へ?」珠紀はきょとんとして顔をあげる。「……で、でも先輩が……『させろ』って……」