ボクの手を掴んで離さないまま、穏やかな眠りに落ちてしまった陸の唇に指を触れさせながら、ボクは誰にでもなく小さな声で自分の胸の内を明かす。 Ωである以上、自分にもきっとこの世界のどこかに「運命」で繋がった相手というものがいるのだろう。いつか…、自分にも発情期がやってきて、ボクの運命だという「誰か」に喰らい尽くされる日が来るのだろうか…。 自分がどこかの誰かに「所有」される…なんて、そんなどこかぼんやりした意識で考える自分の行く末なんかよりも、やはり…ボクの意識の最優先事項は、目の前で静かな寝息を零すこの子一人きりに向けられる。 例えば、陸と「運命」で繋がった番だと名乗る相手が、この子の身体をモノとしてしか扱わない相手だったらどうするというのだろう。 身体を繋げる行為の最中にこの子の発作が起きたとして、それでも行為を止めることなく、この子をただ喰らうような相手が陸を「所有」するのだとしたら…。 そんなことになったら、いつか…いつか本当にこの子が、死んでしまうんじゃないか…。 (なんでボクは…、陸の番になれないんだろう…) 穏やかに上下する陸の胸元に額を擦りつけながら、ボクは自分の瞳から零れる涙を陸のパジャマに隠す。 愛しい、恋しい、離れたくない。 世界でたった一人のボクの半身(弟) 誰にも渡したくない。ボクから、この子を奪わないで…。 慟哭にも似た激情が渦を巻く胸中を隠しながら、ボクは陸に縋って声も無く涙を流す。 窓の外で一筋流れた流れ星に、祈る願いはいつもひとつきり。『神様…ボクに、この子の全てをください…』