「ただいま。陸?いるの?」玄関を開けると、小さな靴が一足置いてあった。その靴を見てボクの顔が緩んでしまう。 あの子が来ている。それだけで心の中がほっこりとしてしまう。ガチャリとリビングの方からドアが開く音がして、テトテトと小さな足音が聞こえて来る。「てんにぃ、おかえりなしゃい」ひょっこりと顔を出したのは、ボクの大切な歳の離れた小さな弟の陸だ。 キラキラと輝き、零れ落ちそうなカーネリアンの瞳と、それに似た赤く燃える様な髪の毛を揺らしながらボクの傍までやって来る。ピンクの兎の模様が入った可愛らしいパーカーがとても良く似合っている。「ただいま、陸。お利巧にしていたかな?」ふわふわと揺れる頭を優しく撫でれば嬉しそうに目を細めて『うん』っと、頷いた。 靴を脱ぎ、洗面所へ向かうと嗽と手洗いをして、ソワソワとボクを見上げて来る小さな存在に手を伸ばした。「お利巧な陸にご褒美だね?」小さな体を抱き上げると丸くて柔らかい頬っぺたに、チュっとキスを一つ。 へへへ・・・っと可愛く微笑んで照れる陸の姿がボクは大好きだ。「にぃにー」 「ん?なぁに?」陸に対してはこんなにも自分が甘い声を出せるのだと思ってしまう。一回母さんにも言われたっけ・・・だって陸が可愛いのがいけない。「おしごとおつかれしゃま」 「うん、ありがとう」 「えへへ」ぎゅっとボクに抱き付いて来る可愛い存在を、更に抱き締めると腕の中できゃーっと喜んでいる。 陸を抱っこしたままリビングへと戻り、ソファーの近くに少し大きめの鞄と置手紙があった。 その手紙を手に取ると母さんの字で陸の事をお願いしますと書いてあり、鞄の中には最低限必要な物が入っていた。 その鞄の中を漁ると、陸の服と下着、パジャマと私服が数枚、陸がお気に入りだとボクに紹介してくれたうさぎのぬいぐるみ、少し大きめのポーチの中に入っていたのは陸が飲んでいる薬の数々・・・と吸入器。「何か前より薬が増えている気がするんだけど?」 「う?」 「陸、具合良くないの?前よりお薬増えてない?」 「んー?わかんない」 「・・・そう?気の所為かな?」ポーチの中に入っていた母さんの手書きの紙。陸が毎日飲む薬の種類と数が書いてあった。 明らかに以前、実家に帰った時より数種類増えていた。手書きの紙に陸の発作の回数が少し多くなっているので注意して欲しいと書いてある。多分季節も絡んでいるからだとは思うけれど・・・