とまあ、そんなことをあれこれ考えていたせいで、セーラ司祭の呼びかけに気づけなかったのである。 俺は今の今まで考えていたことをきれいにおし隠して、セーラ司祭に問いかけた。「心配していただいて恐縮ですが、私なら大丈夫です。それで、司祭殿の訊きたいことというのはなんでしょう?」「そうですか……それではお訊ねしますが、先日、ソラさんは新しい解毒薬には竜の血を混ぜているとおっしゃっていました」「はい。申し上げましたね」「今日、イリアの症状が再発したことから推おして、今後、かなりの量の解毒薬が必要になってきますが……竜の血はどれほど残っているのでしょうか?」「それは……」 思わず言葉に詰まる。まさか似たようなことを考えていたとは――というのはおおげさか。今の状況で、セーラ司祭が解毒薬の残量を気にするのは当然だ。 さて、なんと答えるべきか。 今の問いから察せられると思うが、俺はまだセーラ司祭に「竜の血=俺の血」という真実を伝えていない。 これは俺の同源存在アニマや心装に直結する情報なので、いかにセーラ司祭相手でもほいほい教えるわけにはいかなかったのだ。 なので、今なら司祭を騙だまそうと思えば騙せる。竜の血はイリアを治す分しかありません、と言ってしまうか? だが、嘘はいずればれる。そうなれば、セーラ司祭は嘘をついた俺に失望するに違いない。司祭に失望の眼差しを向けられる自分を想像するのは耐えがたかった。 ――もういっそのこと全部ぶちまけてしまおうか。 ふと、そんな思考が脳裏をよぎった。だいたい昔から、俺が考えすぎるとろくなことがないのだ。 ここで真実を明かせば、少なくとも嘘つきだと軽蔑される未来はなくなる。血が足りない問題にしても、もしかしたらセーラ司祭が何か妙案を出してくれるかもしれない。 なにより、他者を見捨てる冷血漢として接するよりも、できるだけみんなを助けようとがんばる熱血漢として接する方が、セーラ司祭の好意も得られるというもの。