「…は……」詰めていた息を吐き出して、テーブルの上に置いてある残りの酒を一気に呷る。耳元には陸の苦しげな声だけが響いて止まない。「……きっつ…」空になった缶をテーブルに置き、見ていられなくて腕で目を覆うようにして背もたれに身体を預け、最小限の音量に抑えた声が溢れた。 こうも的確に、こっちが嫌なものを残していく藍沢直哉は悪事の天才だ。……天はこれを全て見たのだろうか。全て見た上でこれを渡してきたと言うのか。「…はは……」思わず乾いた笑いが溢れて、誰も居ない共有スペースに響いた。 今すぐにでもぶん殴ってやりたい。陸を傷付けて悲しませて、九条を苦しめるあいつを。「–––––それ、見ちまったのか。」後ろを振り返らずとも誰の声かわかった。背後でソファの背凭れに肘を乗っけて、身体を預けたのを感じた。その言葉からして知っているのだろう。「……大和さん…。あの、さ……」 「ん?」何でここに居るのかとか問うことはしなかった。 唯、心の内で燻り続けていた疑問を吐露するように言葉を紡ぐ。「……あの日、俺達の楽屋に藍沢直哉が来た後ライターが落ちてて、それを届けに行ったって陸が言ってた。……それってさ…偶然、だったのかな…?」ずっと考えていた。そして、“それ”が偶然では無かったとしたら、藍沢直哉の計画は一体いつから始まっていたのだろうか。始めからあんな風に陸を巻き込んで傷付けるつもりでいたのだとしたら。…そう考えると酷く恐ろしい。「…藍沢直哉は狡猾で残忍で、そんな悪趣味なものまで撮る男だ。全て仕組まれていたとしてもおかしくは無いだろうな。」 「ッ…何だよ…それ…。」冷静に述べる大和の言葉を聞いたらもう、心がどうにかなりそうだった。恐ろしいのか怒っているのか、悲しいのか悔しいのかよくわからない。 唯、胸が苦しい。「り…」後ろに居る大和からそんな声が聞こえたかと思うと、瞬間背後から伸びて来た手が目を覆った。「…見ないで。」