「こんなんばっかしで免許取る気無くすよ」「でもあともうちょっとで本免許取れるんでしょ?続いてるじゃん」彼女は半笑いで愚痴を聞いてくれている。月に2回くらい僕の部屋に泊まりに来てくれる彼女。大学の同期として出会い、付き合い始めて1年と少し経つだろうか。お互いにバイトがない日や5限が同じ教室のときなどのタイミングで一緒に帰り、安い酒を飲んだり当てのない話をする、1つの理想の付き合い方をしているなと我ながら思う。愚痴に付き合ったり付き合ってもらったりするのも、幸せな日常のひとコマだった。「やさしく教えてもらえる女の子が羨ましいよほんと。女の子だったら多少ドジでも優しく教えてもらえるしさあ」この言葉も今日思った何気ない愚痴の1つのはずだった。ところが彼女は少し表情を変えて、「女の子になりたいの?」と訊いてきた。「あ、違う違う、性別で対応違いすぎだろって話だから」「でも今、女の子になりたいって思ったんじゃない?」「え?何、どうしたんだよ急に」「…ちょっとベッドに座って」何かまずいことを言ったか。別に女の人生は楽だとかそういうことを言うつもりじゃなかったのになあ。機嫌を損ねてしまった罪悪感と困惑が脳内で入り交じりながら、僕は床から腰を上げてベッドに座り直す。すると彼女も僕の隣に座り、身を寄せてくる。そして僕の目を見てこう言った。「女の子にしてあげる」「えっ」その言葉の意味がわからなかったのに僕の心はまるで恋に落ちたかのようにどきりとした。「女の子になったら優しくしてもらえるんだよ?女の子になりたいでしょ」「いや、でも…」「大丈夫、私ね、男も女の子も好きになれちゃうタイプだし、あと、」彼女はさらに距離を近づけてくる。「女の子になって幸せになっちゃう男が大好きなの」女の子にする、女の子になるという意味が具体的にピンと来ない僕は、彼女の言うところを半分も理解できなかった。「その、女の子にするって、どういう意味?」ついに僕は尋ねた。「ふふ、すぐにわかるよ、目閉じてみて」彼女は別に怒ってるわけではないことがわかったけれど、少し不安ではある。困惑の表情のまま僕は目を閉じる。