成り行きで来てしまったいつものスタジオ。事前に予約を入れていたのは事実だし、何も後ろめたいことはないのだが、まさか美竹さんと来ることになる日が来ようとは先日の私では想像もつかなかった。「───で、弾いてみたら良いんですか?」 入るや否や、そういう美竹さん。自身の悩みを晴らせることに期待しているのか、それとも単に弾きたいだけなのか。それを推し量る術はないけれど、「そうして下さい。そうじゃないと分かるものも分からないので」 と、私が返すと美竹さんはギターを弾き始めた。 身中に湧き上がる激情を乗せるような激しい音。それはまさに雷鳴が轟くような音に近い。だからといって、音が割れてるわけでも汚いわけでもない。実に美竹さんらしい音だ。 そのまま数分間弾き続けてもらい、私は“ある事”に気が付いた。……だけど、これは────「…………おかしいわね」「やっぱり客観的に見て変ですか?」「いや、違う。あなたの音、何も変わってないじゃない」 ───最初は私が美竹さんの音を忘れているだけだと思った。 だが、流石に数分間も聞き続ければ今まで2バンド間で行ってきた対バンライブの音が脳内で蘇ってくる。が、その音に私は何も違和感を感じなかった。 以前と変わらない荒々しい音。むしろ、変わった点を探す方が難しいほどに“今まで通り”のその音に私は怪訝な表情を浮かべずにはいられなかった。「(本当にこの音を聞いて『音が変わった』と言うの……? Afterglowのメンバーには感じ取れて、私に感じ取れない“何か”があるということかしら?)」