だがその言葉でランドルフの腕は止まった。 確かに、ナターニャを殺すのならそれぐらいはするのが筋かも知れない。だが、それには冒険者ギルドを訪れ、ナターニャを見捨てるどころか、意図的に傷つけ囮にした事を説明する必要がある。 当然、何故そんな事を知っているのかとギルドに説明したうえで。(ミノタウロスキングの群れに囚われていた女冒険者から聞きました……そんなお前は何者だって話になるな。そうなると公爵の依頼の事は黙って俺の正体を明かすか? 身分も明かさず説明もしない場合は……通報しても調査されない可能性が高いから、そうするしかないわけだが。 いや、そもそも俺の正体がばれた時点で、アルクレム公爵からの依頼で動いた事は察しがつくだろう。俺は昔世話になった奴か、その子孫の依頼しか受けていないからな。すると、ユリアーナの件と結びついて考える奴も……) 真実が世間にばれた場合、最悪アルクレム公爵は『真なる』ランドルフを使って公爵家にとって邪魔になった妹を殺したと言うレッテルを張られかねない。 ランドルフとしても、公爵に雇われた殺し屋呼ばわりは困る。これから同じような依頼が他の公爵家から殺到したらと想像したらと思うだけで、死にたくなる。ならナターニャの頼みを受け入れず、ただ二人を殺していけばいい。(考えてみれば、ナターニャはユリアーナの事を公爵家の者だと知っている。だったら、ユリアーナが討ち死にした事にするには、彼女を殺す以外に道は無いわけだ) だから依頼を優先するなら殺すしかない。ユリアーナが部下共々ミノタウロスに生け捕りにされ、しかしランドルフが助ける前にユリアーナだけ死に、部下だけが生きていた場合と同じだ。 そして、ナターニャは死にたくないと言っている。「仕方ないか」 ため息を吐いて、ランドルフは剣を振るった。ナターニャがきつく目を瞑った。だが血が飛び散る音がしないので、暫くしてから困惑した様子で目を開いた。 ランドルフはユリアーナの長い金髪を肩にかからない長さに適当に斬り、公爵家の家紋が彫られたペンダントの鎖を千切って、懐に入れた。そして他に指輪などが無いかを確認してから、目を瞬かせているナターニャに告げる。