夜まで公園にいる陸に、真面目で優しい女の人が見かねて声をかけてくれたのだ。でもこのままじゃさすがにまずいからどうしようかと、迷ってたところだった。わざわざ自分のだらしない生活を白状するのは嫌だったが、こんな経歴ではさすがにアイドルになんてなれないとわかってくれるだろうと考えて言うことにした。 こんなにも熱心に向き合おうとしてくれた人に対して、せめてきっぱり諦めて貰おうと思ったのだ。しかしそんな陸の言葉に、音晴は一つ頷くと穏やかに、しかしきっぱりとした声を発した。「君の事情はわかったよ。やっぱりうちで働こう?」陸はあっけにとられて、目の前の音晴を見上げた。 そして、先程紹介された紡にちらっと視線を投げて苦笑する。 「……変わった人だな……娘さんに、こんな危ないやつ近づけて平気なの?」 陸の突き放したような言葉を、音晴は穏やかに受け止めた。 「人を見る目はあるんだ。君は、危なくなんてないよ」 「……な、」 「今はアイドルじゃなくていい。事務として、どうかな?」音晴は言葉を切り、少し躊躇いながら優しく微笑んでいる。「君の事情は、少し聞いたよ。……君は守られるべき時期に守られなかった。そのことで君が傷ついてしまったのは、君のせいではない。周りの大人の責任だ。まだ君には助けが必要だ。今は周りに…私達に、甘えなさい」陸は言葉を確かめるみたいにじっと音晴を見つめて、そしてそっと視線を落とした。「……お断りします……」 「陸さん……どうしてですか?」 紡が一歩踏み出して、陸へとそっと呼び掛けた。陸が微かに顔を上げて紡達を見つめた。 その瞳は、驚くほどに無防備に揺らめいていた。「……本当に優しい人が変わってしまう瞬間を見るのが……本当に心が折れるから…」陸の茜色の瞳が滴をこぼしそうに揺らめいていて、見ている方の胸が苦しくなるほどだった。