コンコンというノックの音が聞こえて、私服に着替え終えていた楽がドアに視線を向ける。 「入って大丈夫かしら?」 ノックした主はマネージャーの姉鷺だった。 楽の返事を待たずに、やや慌てた様子で楽の控え室に入ってきた。 「どうしたんだ?」 姉鷺にしては珍しくというか、どこか焦っている雰囲気を感じて、何か不都合でもあったんだろうかと思い、楽が尋ねる。 「ねぇ、天を見なかったかしら?」 姉鷺はやや早口で天がいなくなったこと、電話をかけても出ないこと、ラビチャにも既読がつかないことを楽に伝える。 「悪いな。こっちにはきてないぜ」 いつもだったらTRIGGERの控え室は3人一緒だが、今日はそれぞれ別の控え室が当てがわれていた。 ちょうど手に持っていた携帯を確認するが、天からラビチャや電話の着信などの類いは届いていなかった。 「ちょっと天に用事があって天の控え室で待ってたんだけど全然戻ってこないのよ。それに天ってばバッグ、控え室に置きっぱなしだし」 もし、万が一、先に帰ったというならばバッグは必ず持って帰るはず。 今日の撮影場所は、やや郊外から離れていて撮影の為に貸し切ってるとはいえ、人が通らない場所という所でもない。 もしかして偶然ファンにでも見つかってしまって手間取っているんだろうか。 「あっ、楽!」 楽と同じく私服に着替えて帰り支度を済ませた龍之介が楽の控え室をのぞく。 「天がいないって…」 「今、姉鷺から聞いた。ったく、あのクソガキどこふらついてんだ」 「あと30分くらいで撤収するからそれまでに戻ってもらわないと困るのよね」 姉鷺はそう言った後、ハァとため息をつく。 これは遠まわしでなくとも楽と龍之介に天を探す手伝いをしてもらいたいということだろうか。 とりあえず自分からも送っておくか、と思いラビチャをひらく。 『おい、30分後撤収!今どこにいんだ?』という内容だけを書いたメッセージを天に送る。 「…龍、行くぞ」 ドア付近にいた龍之介に声をかけて天を探しに行くべく控え室をでる。 控え室をでた楽の耳に『助かるわー』というやや大げさな姉鷺の声が聞こえた。