『キミが大人になる瞬間、隣にいるのがボクだといい』 十年果たされなかった約束は、もう万年先まで果たされることはないけれど。 駄々をこねる自分を宥めるためだけにそう続けたのだとわかっている。 その言葉に今でも縋っているとは、なんとも愚かで厚かましい。 泣くと壊れるこの身体ほど便利でおぞましいものを、他に知らない。「それを告げたボクの顔をろくに覚えてもいないくせに、わかっているなんてよく言えたね」 都合のいい言葉だけを聞き取ろうとするいけない耳をどうしてやろうか。 抱きしめられている心地すらするこの温もりを、必死に手を伸ばしては逃してきたこの光景を、どこか遠くへ葬るには。《求められたことにそれ以上のもので応えるのがアイドルですから》 苗字の違う彼の名前をそうっとなぞる。 《新人賞アイドル特集》と掲げられた月刊誌には、爽やかな笑顔が綴じられていた。 こちらの教訓にこそ、今は身を寄せるべきなのだろう。 取り返しのつかない思い違いが、七瀬陸を七瀬陸へと造り変える。「だからオレは-----」「それでもボクは-----」