「天にぃ…」 「……キミは、変わらないね。七瀬天の弟の七瀬陸はもうどこにもいないって、言ったけど……陸は、陸だよ。七瀬天の弟だった陸も、IDOLiSH7の七瀬陸も、みんな、全部、ボクの可愛い、大切な、……大切な、宝物だよ」天の震えた声に、陸の瞳からもやがてつうっと涙が流れ落ちる。ぐすりと鼻を啜りながら、陸は再び天に抱きついた。天もそんな陸を優しく抱き締め返した。「…天にぃのこと、もう聞かないよ。どうして置いてったの、家を出ていったのって、もう聞かないって、決めたんだ。同じステージに立つようになって、天にぃが目指したかったもの、夢を見ていた気持ち、少しは分かるから」 「陸…」 「でも、これだけは聞かせて。どうして、日記帳を置いていったの。どうして、キーホルダーを持っていったの…?」陸の問いかけに、天はぼんやりと、家を出ていく時のことを思い出す。家を出ていくと決めた時。まだ、陸にはその旨を伝えないままに、最低限の荷物を詰めていった。九条鷹匡に出会ってから、陸を置いて家を出ていかなくてはならない可能性を示唆されて、陸のことを後ろめたさから日記に綴れなくなってしまった。そのまま、ずっと自分の机に放置された日記を、もう目に入らないように棚に押し込んで、置いていくことを決めた。未練がましくなってしまうものは全て置いていこう。天はそう決めて、必要最低限の荷物だけを詰めるつもりだった。最後に、家を出ていくことを伝える前の、穏やかな陸の寝顔を見たくて、陸の部屋に忍び込んだ。すうすうと眠る陸が可愛くて、この子をこれからどれだけ悲しませるのかと想像するだけで、胸が千切れそうに痛かった。同時に、この子を助けるためなのだと思うと、一層家を出ていく決心が強まった。その時、陸の机の上に、ちょこんと、自分がプレゼントしたキーホルダーが置かれていた。まるで自分たちみたいだと、陸もそう思って喜んでくれるだろうと思った、双子の子犬のキーホルダー。天はそれを、衝動的に盗んだ。陸の記憶から自分を消したかったのかもしれないし、自分の陸への愛情を完全に捨てきることができなかったのかもしれない。衝動的に、荷物の中に押し込んだ。そして、九条に引き取られて、九条の家で荷物を整理していた時に、そのキーホルダーを目にして、天は泣いた。九条鷹匡に気づかれないように、静かに、声を上げることなく泣いた。