夕刻を迎えたシュバリエイター基地、S・ベース。その居住施設の門を潜る、セーラー服を着た小柄な少女の姿があった。神原桃(かんばらもも)。平和を守るため激昂戦隊の一員、ピンクエイターとして日夜悪と戦う明朗快活な13歳の少女である。幼さの残るあどけない笑顔とふわふわ揺れるツインテールがチャームポイントの可愛らしい女の子だ。 学校から帰った桃は、自室へ戻るより先に共用娯楽室へと向かっていた。特に用事があるわけではない。誰かいないかと思ってなんとなく足を向けただけだ。桃はしばらく一人でいると、誰とでもいいから無性に会って話したくなる質なのである。極度の寂しがり屋ともいう。 娯楽室に着いた桃は、声をかけながら扉を開いた。 「ただいまー。誰かいるー?」 中を見渡すと、そこには部屋の真ん中に配置されたソファに足を組んでどっしり座っているツンツン頭の少年、レッドエイター赤沢仁(あかざわじん)の姿があった。ツンツン頭に野性味ある顔つき。服装はTシャツにハーフパンツと楽そうな格好である。仁は桃の来訪に気付くと、「よっ」と軽く手を挙げて挨拶。それを受けて桃は顔を綻ばせ、とてとてと仁に寄っていく。 「仁、ただいまっ」 「おう桃、今帰りか」 「うんっ。仁のほうが早かったんだね」 「まあな。周は一緒じゃねえのか」 仁は桃の後ろを見ながら、双子の姉である神原周(かんばらちか)のことを尋ねてくる。桃は首肯する。 「周は委員会で遅くなるんだよ。保健だより作る当番なんだって」 「そうか。よかった」 「よかったってなにが?」 「こっちの話だ気にすんな。それよか珍しいよな。お前と周がセットじゃないなんて」 「姉妹だからっていつも一緒なわけじゃないよ。てゆうか、人をファーストフードのメニューみたいに言わないでよぉ!」 「ははっ、わりいわりい」 「仁の方こそ、晃と一緒じゃないの? 翔は?」 桃がお返しとばかりに青と緑の男子二人のことを尋ねると、仁は肩を竦めて答えた。 「晃はサッカー部の練習試合の助っ人に駆り出されてったよ。翔は知らねえ。あいつとは今日会ってねえから。まだ帰ってはねえみたいだけどな」 「そっか」 この基地で一緒に暮らし、苦楽を共にする激昂戦隊の仲間達も、学校ではわりと疎遠なのである。一応、五人とも同じ学校に通ってはいるのだが、学年毎に教室のある階が別れているから仕方がない。三年である仁と晃が三階、二年の翔が二階、一年の桃と周が一階の振り分けである。よほどの用事がないかぎりは、わざわざ先輩達(或いは後輩達)で溢れ返る別の階まで足を向けたりはしないのだ。 とりあえず、今帰ってきているのは仁と桃の二人だけらしい。遊び相手が一人いただけでも桃は嬉しかった。仁の隣にちょこんと座り、スカートを撫でてしわを伸ばす。体がくっつきそうになって、仁はピクリと眉を潜めた。 「狭ぇよ。あっちに座れよ」仁はテーブルを挟んで反対側にあるソファを顎で指す。 「いいじゃん。仁が一人で場所取りすぎなんだよ」 「一人でゆったり座んのが好きなんだよ」 「私は人の隣が好き」 「じゃ、勝手にしろよ」 仁は少し横にずれて足を組み替える。文句を垂れつつも桃が座るスペースを空けてくれるあたり、彼の心根の優しさが伺える。桃はつんとそっぽを向いた仁の顔を見ながらにっこりと頬を弛ませた。