「あ、あの!」「なんでしょう?」「お風呂に入っているので、こちらへ顔を出していただけませんか?」「良いのですか?」「はい」 まぁ彼女が良いと言うのだから良いのだろう。風呂の前へ行くと、プリムラさんが肩までお湯に浸かっていた。 今更、女の裸にどぎまぎするような歳でもないからな。「湯加減はいかがでしょう」「とても良いです。 こんなに簡単にお風呂へ入れるなんて……」 貴族式の風呂だと石で風呂を作って、ボイラーを作って、配管を作って――と大変な事になり、最低でも数千万円は掛かるらしい。 彼女の顔は真っ赤だが、お湯で赤いのか、それとも恥ずかしくて赤いのか、それとも両方か。「恥ずかしいのなら影に隠れていますが」「いいえ、ここにいてくれないと……」「そんなに怖いのなら、次の機会にするとか他の選択もあったでしょう」「いいえ、商売というのは機会を逃すと一生巡り合わない事もありますから」 元世界には一期一会って言葉があったが、この世界にはあるんだろうか?「しかしなぁ――良家のお嬢さんが見ず知らずの男の前で裸になるとは、いかがなものなんでしょうかねぇ」 ちょっと嫌味っぽい言い方だが、プリムラさんの強引さも気になる。 それだけ俺の持っている商品が魅力的なのかもしれないが。「マロウ家は成り上がりの商人で良家でもなんでもありませんわ。それに、ケンイチさんも見ず知らずではありませんし」 彼女に、アイテムBOXから出したタオルを渡すと、気持ち良さそうに首の周りを拭いている。「私が悪人だったどうします?」「獣人を助けて、森猫を助けるような方が悪人だとは思いません。普通は怪我した森猫を見つけたら止めをさして、ギルドへ持ち込むでしょう?」「そりゃ、そうだ」 ミャレーから色々と聞いたようだな。彼女が身体を洗うと言うので再び板の影に隠れる。 洗っている音を聞くと髪も洗っているようだ。石鹸で髪を洗うとゴワゴワするんだよなぁ。「プリムラさん。髪の毛を洗ったなら、この薬品を髪に付けて、少し経ってからお湯で流してください」 アイテムBOXから、リンスのボトルを渡す。「どうやって出すのでしょう?」「ああ、頭を押すと出ますよ」「……でました!」 彼女が喜んでいるような声が聞こえてくるのだが、姿が見えないので何をやっているかさっぱりと解らん。 さて、シャングリ・ラを開いて、新しいバスタオルとバスローブを買うか。 それと髪を乾かすための、ジェットヒーターを準備する。獣人のミャレーの毛皮を乾かす時に使ったのと同じ物だ。これなら彼女の長い髪もすぐに乾くだろう。 プリムラさんがお湯から出る音が聞こえてくるので、準備した物を渡す。