兄は部屋の障子を開けると、俺がいる事に驚いて、声を発するまでに時間がかかった。兄は俺が仕事相手なのだと知らなかった。声を出さない間、兄も悩んだのだろうか。その時にそんな事を考えていた訳ではないけれど、俺は兄が言葉につまるのを感じ、兄の顔を見た。俺に見られた事で兄は余計に沈黙した。瞬きもしないまま、顔の上にある皮膚が止まっていた。俺も座った場所から動けなくなる。どちらがこの空気を作っているのか分からなかった。ただ、きっかけを作るのはいつも兄の方だった。 兄はやっとの思いで笑みを形作れたと言う様に、安堵の気配を交えながら、「鯰尾と仕事なんだね。始めようか」と宣言する。