灰色のざんばら髪に赤銅しゃくどう色の肌をした少年。ターバンのように頭に幾重いくえにも布を巻きつけている。どうやら俺が思い浮かべていた甘味屋に立ち寄ってきたばかりのようで、両手に十本の団子の串を握っていた。 さすがに買いすぎでは、と思ったが、少年は豪快に団子を頬張り、見る見るうちに胃袋に放り込んでいく。俺とすれ違う頃には十本分の団子は綺麗に串だけになっていた。 指についた餡子あんこやら黒蜜やらをなめる少年の動作は、行儀という意味では落第点だったが、不思議と野卑な印象は受けなかった。年頃の少年らしい野性味と活力が伝わってきて、自然と頬がほころんでしまう。 年齢は俺より一つ二つ下といったところか。顔や腕からのぞく傷跡を見るに、おそらく青林旗士の一人だろう。それもかなりの使い手だ。 ――それはつまり、これから戦うかもしれない相手ということ。 すっと目を細めて少年を見据える。ゴズとセシルにも向けた、相手の力量を量はかる観かんの目。 と、いきなり少年の目がぐいっと俺に向けられた。それまで物珍しげに周囲を見回していた眼差しがぴたりと俺に据えられる。射るような眼差し、とはこれを言うのだろう。戦意が突風となって吹きつけてきたような、そんな錯覚さえおぼえた。「喧嘩を売るつもりなら買うぜ?」 少年はどこか楽しげにそう言った。こちらを見る目に怒気はなく、ただ純粋に強い相手との戦いを望む闘志だけが燃え立っている。 そんな少年に対し、俺は素直に自分の非を認めて頭を下げた。「いや、そのつもりはない。非礼をお詫びする」 こちらが素直に謝罪をしたことが意外だったのか、少年は拍子抜けしたような顔をした。どことなく残念そうでもある。「なんだ、ようやくまともな相手が出てきたと思ったのに。まあ、やる気がないなら仕方ない。誰彼かまわず観みるような真似は控えなよ」「忠告、肝に銘じよう。申し訳ない」「詫びはもう受け取ってる。二つはいらない。それじゃあな――って、んん!?」 ひらひらと手を振りながらすれ違おうとした少年の口から、不意に妙な声が漏れた。何やら眉間にしわを寄せながら、じっと俺を――正確には俺の左手首にある腕輪を見つめている。「……なあ、あんた。それ、その腕輪、どこで手に入れたんだ?」「これか? 旅に出るときに友人から贈られたものだ」「友人、友人ね。ちなみに、その友人は腕輪のご利益について何か言ってたかい?」「たしか、無病息災を祈るものだと言っていたが」