春休みに入り、そんな休日のこと。朝から二人は彩の部屋で過ごしていた。 紗夜が部屋に来て一時間ほど経っただろうか。 こののんびりとした幸せはいつまでも続くと思われたその時。「彩さん、私たちの関係は今日で終わりにしましょう」 紗夜は告げた。「えっ……? えぇっ!? えっ、紗夜ちゃん!? ちょ、えぇ!?」「それでは、さようなら……短い間でしたが、とても楽しかったです……」 突然のことに動揺している彩に構わず、少し悲しそうな表情でそう続けて、紗夜は家から出て行ってしまった。「紗夜ちゃん待って……! 嘘でしょ……? ねぇ、紗夜ちゃん……? 嘘って言ってよぉ……! ねぇ……どうして……」 彩はこの現実を受け入れることができずその場で泣き崩れてしまう。「うぅ……あぁ、うああぁぁぁぁぁ……!」 止まらない涙は、頬を伝い、そして顔を覆った手から溢れる。 丸山彩は、今、深い悲しみのどん底に落とされた、そんな気分だった。 一方その頃、紗夜はと言うと、CiRCLEのカフェテリアにて、今井リサとお茶をしていた。 そこに座るその様子はあまりにもばつが悪そうであった。「はぁ……少しやりすぎてしまったかしら……」「そんなことないんじゃなーい? 彩のことだからほんとにフラれたと思ってそうだよねー、あはは、ちょっと笑っちゃうかも」 リサは少し可笑しそうにしている。だが。「笑えませんよ……! だってあんなに泣かせてしまったのですよ!!」 紗夜は少し赤面しながら、リサの言葉を否定した。「じゃあ、そこまで言うならなんでやったのさー?」 先程よりもさらに顔を赤らめて紗夜は答える。「だって……彩さんを見ていたら少しだけいたずらしたくなったんだもの……」「紗夜にもそんなとこあるってのがまた可愛いよねぇ」「今井さん……! 何を言っているのですか……!」 紗夜の顔はこれ以上赤くはならないだろうという程に真っ赤だ。「いやぁ、でもびっくりしたよー? 紗夜が彩にドッキリをしたいとか言うなんてさー」「わ、私だってそういう時くらいあります……! しかも、今日はエイプリルフール、でしたし……」「いやぁ、仲が良いのは結構なことだねぇ」 彼女らが一体何の話をしているのかと言うと、今日は四月一日、つまり俗に言うエイプリルフール、である。 そして、エイプリルフールだから、と珍しいことに紗夜がドッキリを仕掛けたいとリサに相談してきたのだった。 つまり、丸山彩は見事に騙されたのだった。 今日が何の日か忘れている辺り、相変わらず抜けているものだ。