武具の点検が終わって、気付くと皆が僕を見ていた。僕は頷く。 まだ早朝だけれど、今日のうちに北のダンジョン、『大空洞』に潜っておきたかった。溢れるまでにもう時間の猶予は無いのかもしれないから。 シエスには初めてのダンジョン攻略になる。ふと、大丈夫だろうかと彼女を見ると、シエスは緊張した風も気負った様子もなく、ただ自然に、いつも通り凛と立って、僕を見ていた。不思議そうに首をかしげてさえいる。出発しないの、と言われている気がした。 頼もしい限りだった。僕が初めてダンジョンに潜った時は、どうしても震えが止まらなかったのに。 いや、違うな。あの頃、僕は自分の力も、ユーリの才能も、何一つ信じ切れていなかった。何もかもが不安だった。 けれどシエスは違うだろう。僕が魔導都市までシエスを守り抜いた。そんな僕を彼女は信じてくれている。だから、震えずにいられる。そう信じよう。「よし。行こう」 そう言って、僕らは歩き出した。 ガエウスが意気揚々と前を行く。隣にはシエスとルシャがいて、後ろには影のようにナシトが続いた。 いつもと変わらないのに、いつになく心が沸く。信じてくれる彼らを守り抜いて、僕も一緒に生きて帰る。そのために、全力を尽くそう。 いつもの、冒険の前の震えはもう、欠片も感じなかった。