天も陸もお互いに黙り込んだまま、とりあえず陸を自らの楽屋まで連れて来ると椅子に座らせる。その辺にあった袋に氷を詰め込んで持って来た氷袋を、陸の濡れている箇所に押し付けた。「あ…ありがとう、天にぃ…。」 氷袋を受け取り、お礼を口にした陸は軽く息を吐いた。「腕も出して。」 救急箱を開けながら一言そう言うと、陸は大人しく袖を捲って腕を伸ばした。 パッと見た感じ、傷はそれほど深くは無さそうで安堵しながら手当てを施していく。「–––––ッ痛…!」 「我慢して。」 傷口に消毒液を付けると、陸から痛みを訴える声が上がる。そんな陸にピシャリと一言言い放つが、心の奥底からは苦い気持ちが湧き出て来ていた。「……どうして庇ったりしたの?」 包帯を陸の腕に巻き付けながらそう口にした。 真っ青な顔色で笑うのを見る度、傷口を見て痛みを訴える声が上がる度、そんな思いが溢れて止まない。 庇ってなんて欲しくなかった。こんな風に陸に傷を付けられるくらいなら、自分が傷付く方が良かった。「…俺は、天にぃが傷付けられるのを唯黙って見てることなんて出来ないよ。」 天の問いに、陸は穏やかに笑ってそう返し、続ける。「俺、いつも天にぃに守られて来たから、今度は俺が天にぃを守りたい。…だから、天にぃは何も心配しないで。俺頑張るから。」 心配しないで、なんて、無茶なことを言わないで。頑張ってなんて欲しくない。こんな風に傷付けられる陸の姿なんてもう見たくない。守ったりしないで、前に出て来ないで。ずっと後ろに居て。…お願いだから…。「……駄目だよ、陸。僕は守られることなんて望んでない。…お願いだから、それ以上傷を増やすような危ないことはしないで。」 心の内が荒れ狂う中、どうにかそんな言葉を捻り出し、言い聞かせるように口にした。しかし陸は一瞬驚いたような表情の後、嬉しそうに、哀しそうに笑みを浮かべた。「…ゴメンね、天にぃ。でも、俺大丈夫だから。」 陸の謝罪は何に対しての謝罪何だろうか。 天の不安を見透かして、安心させようと大丈夫だと言って笑う陸を見ていると、その笑顔が、存在が、とても儚いもののように思えて、天はゾッとするような不安感を覚えた。