眠りと言えばアルダの従属神の『眠りの女神』ミルって相場が決まってますが、なんだかそんな感じじゃなかったんすよねぇ」 そう夢について語り、「師匠は知りませんか、ヴィダの従属神で夢や剣を司る神様?」と尋ねるサイモン。「……いえ、六文字の名前で夢や剣を司るヴィダの従属神に心当たりは無いです」 ヴァンダルーとしてはそう答えるしかない。夢の中で彼の背中に触れたのは、手ではなく口から垂れ下がった舌の先だとか、彼が受け取ったのは剣ではなく零れ落ちた角だとか、そんな真実はとても言えない。「そうっすか……じゃあ、今度共同神殿でそれとなく聞いてみるか……ああ、十数年ぶりに図書館に行って調べてみるのも良さそうですね」「……アォン」「ヂュ~……」 ファングはそんなサイモンに何故気がつかないんだと溜め息をつき、マロル達三姉妹は残念なものを見る目で肩を落とす。「悪いなぁ、どの神様の加護か教えられなくて」 勿論ファング達の真意はサイモンに伝わる訳も無く、加護を与えた神の名前を知る事が出来なかったのを残念がっているのだと彼には解釈されたようだ。「こんな事ってあるんですかね? やっぱり、俺が不信心なせいですよねぇ……六文字で、最後が伸ばす音の神様の名前で考えても、全く思い当らないし」 さっきまでの明るさから、一転して落ち込んだ様子で肩を落とすサイモン。ヴァンダルーは彼に「気にしないでください、そういう仕様なのです」と教えようか迷った。「でもまあ、加護をくれたって事は俺に期待してくれているって事だ! これからも師匠の修行を頑張って、腕を取り戻してやり直せば、きっと神様の名前も分かるようになるに違いねぇ! さあ、修行に出かけやしょう!」 だが、再び元気になると門に向かって歩き出した。その後を「仕方ない後輩だな」とか、「まあ、その内気がつくでしょ」と言いたげな様子のファングやマロル達が続く。「……思ったよりも気がつかないものなんですね」「最初に表示された文字の関係もあると思うけど、普通は気がつかないよ、師匠」 ヴァンダルーの呟きに、彼に背負われているナターニャが囁いて答えた。 ラムダの人々にとって、加護は神々から与えられるもの。本来ステータスは重要な個人情報だが、手に入れると嬉しくて思わず親しい者に打ち明けてしまうくらい、特別なユニークスキルなのである。 成長の壁を超える難易度の緩和等、具体的な効果以外にも、自分は神々に認められ、選ばれたのだという優越感を刺激されるのだろう。 そんな加護が師匠から与えられたものだとは、やはり夢にも思わないようだ。