今度こそ嫌われた。そうスレッタは思っていた。野生の生き物達にとって、痛み、苦しみを与えるものは大抵毒であり命に関わるから、一度経験したら避けるようになる。それは正しい学習の仕方だし、理屈としても正しい。 やりきれない気持ちで息を吐く。痛がらせた。この手であの美しい毛を血に濡らした。そうしなければ彼女は死んでいたとは言え、肉を抉ったからにはあの傷口は残ってしまうだろう、一生。見惚れるほど美しい獣を、この手で傷つけてしまった。スレッタにはそれは許し難い罪のように思えた。「次見に行ったら居なくなってるかもなぁ……」 そもそも彼女は野生の生き物だ。人間と深く関わってしまう方が在り方としては間違っているだろう。人は森から距離を置いて付き合わないといけないし、それは森番でも変わらない。スレッタはもう一度溜息を吐く。森番として森の生き物への付き合い方を考えている自分とは別に、あの白銀の狼に心惹かれているのもまた自分だ。名前を付けて、親し気に呼んでいる時点でそれは明白だった。 これで良いんだ。じくじくと痛む左腕を擦って、そう自分に言い聞かせる。 自分に、この森に縛り付けてしまう前に、きちんと手放せたのだから。