(しかも儂がどれだけ教育してやっても、謝りに来るどころか逆らい続けておる!) ヨゼフの言う教育とは、彼がヴァンダルーに対して行っている嫌がらせの事である。ただし、比喩表現や皮肉ではなく、ヨゼフは本気で教育だと思っていた。 生意気なガキに世間の厳しさを教え、目上の者の言う事を聞く大切さを教えてやるための教育だと。これまでも鼻持ちならない若造には繰り返しやって来た事だ。 しかしヴァンダルーは反省してヨゼフに謝罪し、提案を受け入れさせてくださいと頼みに来る様子を一向に見せない。仮登録を済ませた後商業ギルドに寄りつきすらしない。 妨害しているはずの屋台業は、何と狩りを行い自力で食材を手に入れるばかりか、最近ではゴブリンやコボルトの肉を食用に加工する驚異的な技術を使って、他の屋台を傘下に収めてしまった。 更に野良犬やジャイアントラットをテイムしたかと思えば、ランクアップさせてテイマーギルドから期待の新人として注目されている。 未確認の情報だが、昨日には魔物を新種にランクアップさせたらしい。ギルドマスターのバッヘムが都に向かったのも、ヴァンダルーをテイマーギルドで囲み込むためギルド本部に働きかけるためだと噂されている。(だがテイマーギルドの事はどうでもよい。問題は、ゴブリンの肉だ!) 古来より……それこそ英雄神ベルウッドが生きていた当時から、臭くて不味いゴブリンの肉を食料に出来ないかと、今まで数え切れないほどの魔術師や錬金術師、貴族や冒険者、市井の料理人が試みてきた。 そして数え切れないほどの挫折を繰り返してきたのだ。歴史上幾つかの加工法や調理法は発見されたが、そのどれもがコストがかかり過ぎて現実味の無いものだった。ゴブリンの肉を不味くは無い程度の味にするために、多くの手間と大量の調味料や香辛料を必要とするのでは、食糧危機や貧民対策にはとても活用できない。(しかし、そのゴブリンの肉を食用にする術をヴァンダルーは知っていた。グールの知恵らしいが……いったいどうやって聞き出したのだ? やはりテイムしたのか? それとも母親がいたダークエルフの里がグールと通じて……いや、そんな事はどうでもいい。薄汚い貧民相手の商売だが、その技術が手に入れば食料問題で頭を悩ませている貴族から金を搾り取る事が出来る! だと言うのに……あの母子め! 奴らは本当に商売をするつもりがあるのか!?)