「ロージャ」 目が覚める。夢で聞いたユーリの声とは違う、もっと穏やかな響き。ルシャが僕を呼んでいた。「起きてください。交代の時間です」「……ごめん、寝入ってしまってた」「いえ。……大丈夫ですか?少し、顔色が」 ルシャが僕の真横で、僕を覗き込んでいた。息の触れる距離。美人は寝起きに見てもやっぱり美人なんだな、と寝ぼけた頭でとぼけたことを思う。 今、ダンジョン内で野営中であることを思い出す。「大丈夫。いつも、こんなものだよ」「ですが――」 何か言いたげなルシャを、ガエウスの大いびきが遮った。僕とルシャは苦笑してしまう。 本当に大丈夫だと目で伝えて、そのまま寝床を抜けた。彼女は、追っては来なかった。 焚き火の前に座って、目を擦る。 ユーリの夢を見たのは、久しぶりだな。シエスと出会ってから、うなされるのも徐々に減って、今はもう、最後にこうした夢を見たのはいつだか思い出せないほどだった。 もう大丈夫だと思っていたのに。聖都でユーリと会ったからだろうか。 焚き火の向こうに、立て掛けた鎚が見える。 フラレて王都を出た直後の、胸を引き千切られるような息苦しさはもう無い。ユーリに対する思いは、もう区切りがついているような気がする。 今の僕にはもう、彼女よりも守りたい人たちがいる。それが答えだろう。 けれど、過去のことを思うとまだどうしても、少しだけ胸が苦しくなる。 どうしてあの頃の幸せを守れなかったのかと切なくなって、やるせなくなる。 今はダンジョン内にいる。もう終わったことで気を散らすべきじゃない。 僕は手で頬をぱちんと打って、空を見上げる。空には満点の星空が広がっていて、ひどく綺麗だった。シエスにも見せてやりたかったな。