女性たちが着ているドレスは、ふんだんのレースに惜しみなく金銀糸を使用している。腰を締め付け、臀部に丸みを出す役目を果たすコルセットに、全身を着飾るのはスキルが付与された装飾にアクセサリーとしての貴金属類である。庶民からすればこのドレス一着で家族がゆうに一年は食って過ごすことができるだろう。 驚くのはこれだけの出で立ちでありながら、嫌みがないのだ。それはこの女性たちに気品があるからである。気品があるから高級な衣類が浮いた印象を与えず、逆にそれが当然であるのだという印象を周囲へ与えるのだ。 また女性たちには共通していることがあった。それは美女か美少女、全員が美しいのだ。口元を扇で隠しているのだが、それでも隠しきれない妖艶な色気を漂わせている。一つ一つの仕草が異性の気を惹くのだ。王族を護る近衛兵たちが、思わずその色香に任務を忘れてしまいそうになるほどである。「あちらにいらっしゃるのは、王妃様とご令嬢の皆々様です」 ユウの耳元で囁きながら、アドリーヌはさり気なくインピカたちを取り返すと「むほほっ」と淑女らしからぬ声を漏らす。「王妃?」 女性たちの輪の中心に、金色の髪を細かく何十にも編み込み後ろで束ね、身につけているモノが――いや、その美しさも頭一つ二つは抜けている女性がいた。おそらくこの女性が王妃なのだろう。その証拠に、頭上には宝石が散りばめられたティアラが、陽の光を受け光り輝いている。だが、ユウはそんなことよりも――「えっ。あのデブ、結婚していたんですか!?」 ユウらしからぬ素の表情で驚くと、アドリーヌは「ふふっ」と上品に笑う。「ええ、ええ。アドリーヌにはサトウ様のお気持ちがよくわかりますよ。驚くことは無理もございませんが、陛下はご結婚されております。 あちらにおわす王妃様は三公爵家がひとつ、デヴォンリア公爵家の出で、周囲にいるのは伯爵以上の爵位を持つ御家のご令嬢です」