「――夢みたいだ、」 こんなにも美しくて綺麗な景色が終わってしまう。ステージからさがり舞台の袖へとはける力はあった、けれどもそこから先はもう一歩も歩けそうにない。何かに溺れるようなこの感覚を陸は良く知っていた。「陸」 名前を呼ばれて顔をあげると傍らに天が立っていた、優しい笑みを陸に向けている。けれども陸の視界では次第に天の輪郭もぼやけていく、優しい顔で自分を見つめてくれている天にいつの間にかこれはいつものような夢に浸っているのかもしれないと思った。手を伸ばし、天を陸が抱きしめても天は抵抗しなかった。困惑するような声と何かを陸に向けて言っているのは聞こえたがそれがなんなのかまでは分からずステージの上にいた時点で鳴っていた耳鳴りが大きくなっていく。周囲の声も次第にぼやけていき、いつもの夢であれば幸せな夢の最中にこんなふうに景色が途切れていくことはなかったのにおかしいとは思いつつ陸はゆっくりと口を開く。「待ってて……オレはちゃんと帰るからね」 彷徨っていた広い宇宙の片隅から、ようやく陸は戻るべき帰る場所を見つけた。見ているだけのあの寂しい思いはもうしなくても済む、愛しい人が待つ場所へと帰らなければ。 ひと際高い音が耳を貫き周囲の音も全てかき消した。瞼をおろした途端に全身から今度こそ本当に力が抜けていく、落ちる直前に見えたのはまばゆい光と陸に向けて手を差し伸べる誰かの掌だった。陸の意識はそこで途絶えた。