どこへ行くでもなく、唯逃げるように走る。こんなに全力で走ったら駄目だとわかっているのに止まることが出来なかった。 大事な物を壊され、何も出来ず。これでは何をしに行ったのかわからない。 こんなことではいつか大事な人達まで傷付けられる。 そんなのは嫌だ。でも、それならどうすればいい。どうすれば良かったのか。 もう、わからない。無理だ。–––––誰か助けて。「…は…。」 どこだかわからない暗い部屋で、足が動かなくなって歩みを緩めた。 息がし辛くて、意識が朦朧とし始める。 緩々とフラつきながら歩いていると、ドンと何かにぶつかった。 ふと上を見上げるとガラガラと積み上げられていた物が落ちて来るのが見えた。 あ、これ駄目なやつだ。 本能的にそう思った。下敷きになったらきっと擦り傷では済まない。 しかし、わかっていても身体は疲れ果てていて動かない。–––––ごめん、皆…。約束してたのに。 何も出来なくてごめんね。 そう上をぼんやりと見つめながら考えていると、突然後ろからグイッと力強く腕を引っ張られた。 破砕音などの凄い音を立てて、先刻見上げた物が落ちて行く。その下敷きになる筈だった陸は気が付くと暗闇から抜け出していて、誰かに強く抱き締められていた。懐かしくて温かい腕は少し震えていた。「……何してるの…危ないでしょう…?」 紡がれた優しい声も少し震えていた。「…天にぃ……ごめん…ごめんね…。」 昔、発作を起こすと天は陸の背を摩ってくれだが、その手はいつも少し震えていた。 また怖がらせてしまった。 それに対してのことや、無力な自分に対してとか、いろんな思いがゴチャゴチャになりながら謝罪をする。 言いながら、不安とか恐怖とか遣る瀬無さとかいろいろと襲って来て、天の肩口に顔を埋めながら思い切り泣いた。