「未来を知っているっていう、不思議な少年がいたんだよ、今から2年くらい前かな……ボクたちがデビューする直前に、事務所を訪ねてきたんだ」 「はあ? なんだそれ、不審者か、映画の見すぎだな」 「まあまあ楽、最後まで話を聞こうよ、それで、続きは? その子はもう、未来に帰ったの?」 「……死んだよ、つい、3日前かな」 楽屋の空気が、しんと静まり返った。 「遺書が来たんだ、ボクのところに。遺書っていうよりは、熱烈なラブレターみたいな内容だったけどね」 和泉一織から送られた最期の手紙は、宛名こそ九条天宛であったけれど、中身は陸への恋文だった。 陸がいない世界、陸が壊すことのできない世界を自ら作ったのに、あの子はその世界を憂いて死んだ。 魔王になれなかった自分には、何の価値もないのだと、そう言って。 (悲しいね。和泉一織……君は世界を守ったはずなのに、救世主にはなれないんだ) ボクの話を、楽と龍は話半分に聞いて、信じないふりをして笑ってくれた。 きっとこれが真実だってことに、二人も気づいていたはずだけれど。