天の彼女だけではない。天と撮影を共にしていた女優やモデル、嬉しそうに天と話していた女性にすら自分は嫉妬していたのだ。そんな醜い自分を知られたくない、見られたくない。他でもない、天だけには。それなのに、そんな顔して見ないでよ。 「…嫉妬、してた。ずっと」 自分の心をさらけ出すことは、勇気がいる。それが例え、ともに生まれ育った兄弟であったとしても。不安に揺れた声は、優しい兄にどう届いたのだろうか。視線を向けた天の顔は、嬉しそうに笑っている、 「嫌じゃないの?」 「嫌なことがある?むしろ嬉しいんだよ」 「嬉しいの?なんで?」 「嫉妬しているのは、ボクだけだと思ってたから」 天が嫉妬?そんな様子、少しも見せてはくれなかったのに。 「陸がこの間、お菓子をもらってた女優さんとか、連絡先を聞かれていたモデルさん、とかにね」 「な、なんで天にぃが知って…」 どれも、天のいない現場の話で、天が知り得ない情報であるはずなのに。動揺する陸に、「さあ、なんでだろうね」天使の笑みと言われる表情なのに、どこか意地悪なその顔は、きっと陸しか見ることがない。ーーーねえ、嫉妬深いボクは嫌い? 昔から、追っても追っても掴むことのできない背中だった気がする。その距離が開くたび、振り返った天が、陸の手を引いてくれていた。だけどある日、九条の手を取った天は、陸を振り返ることなく、導くことなく、ずっとずっと遠くへ行ってしまった。見えなくなった背中に、その姿に、幾度思い焦がれ、涙しただろう。寂しさに、伸ばした手が宙を掻く。やっと、その手を、取れた気がする。 「陸はもう少し、ボクに愛されている自覚をしたほうがいい」