この出会いからは、まるで予め台本が用意されていたみたいにドラマティック、かつ、順調な毎日だった。 まず初めに彼は、ボクに七瀬の家を捨てることを提案してきた。対価は、両親が経営するショークラブの経営不振と陸の治療設備の拡充。もちろん悩むことはたくさんあった。両親に会えなくなること。陸に会えなくなること。家を捨てれば今までの友達だって会えなくなる。けれど、それを差し引いても悪い話とは思えなかった。なんといっても、陸を守ることができるのだ。今よりも良い治療が受けられるし、なによりボクがいなくなればあの黒い猫に脅かされることもなくなるかもしれない。そう思うと、その提案は蜘蛛の糸のようにキラキラと眩しいものに見えた。ショービジネスの話は親がそういう仕事をしていたことも相まってもともと興味があったし――たとえ興味がなくとも、その道の人ということもあって九条さんの話はとても魅力的だった――渡りに船というものである。