夜の街…それはあらゆる欲望が交錯する場所。
今宵も多くの人間で溢れ返り独特の熱気を放っていた。
そんな喧騒が響き渡る表通りとは対照的に静まり返る裏道…その変化はそんな場所で突然訪れた。
街灯の明かりも全く届かない闇の世界…驚いた事に その闇がゆっくりと凝縮し始めたのだ!
それは不思議な光景だった、まるで闇が闇を喰って大きくなる… そんな表現が適切だろう。
それは暗黒の太陽の様に黒い輝きを放ちながら急速に大きくなり、やがて何かの形をとり始めた。
人…!?
そうそれは人間の形になったのだ。
そして更に驚くべき事に黒い人型は歩き出した。
ゆっくりとぎこちなく、時折立ち止まっては何かを探すようにな仕草を繰り返す。
それは まるで生まれたての小鹿の様に何処か愛嬌を感じさせる動きではあったが、その人型から放射される「気」は恐ろしく冷たく、ひどく禍々しい物であった。
同じ頃若く美しい女が一人、繁華街を歩いていた。
その清楚な顔立ちはこのギラギラした街には不釣合いに見えたが、露出の多い派手な服装で辛うじてこの街と釣り合いを保てているように見えた。
しかし、そんな勝気な服装にも関わらず彼女の顔つきは怯え、絶えず下を向いて歩いていた。この場所が自分には相応しくない事を自覚しているのだ。
やがて彼女はこの喧騒に我慢できなくなったのか、突然走り出し人ごみに消えていった…。