楽と龍之介が店員にアルコールを注文している傍らで、天は陸にそっと耳打ちした。 「さっき九条さんって言いかけたでしょう」 「し、仕方ないじゃん、ずっとそう呼んできたんだから。まだ慣れないしさ」 陸は顔を赤らめながら小声で言い返した。 「ちゃんと呼べるようにもっと練習するよ。―あ」 陸が天の肩越しに窓の外へと視線を移した。 「まだ昼間なのに月が出てるよ。天にぃ」 ほら、と天の袖を引きながら、陸は窓の外を指した。 陸に倣って窓の外を見ると、雲ひとつない真昼の中天に白い月が浮かんでいた。 季節は春へと移りつつあるが、空にはまだ鮮やかな冬の青の名残が広がっている。 ああ、そうだ。冬の空の色は、こんなにも清々しい青だった。「陸、小さい頃ボクが空を見ていた理由はね―」