あの日から、紗夜は千聖に距離を置かれていた。涙の理由も分からなければ、ここ一週間はひたすら紗夜なりに原因を考えたつもりだ。 だけど、一向に原因が分からず、しまいには千聖に話し掛けようとすればなにかと理由をつけられ避けられる。あまりにも分かりやすい程に、紗夜は千聖に拒まれていた。気分転換に掃除でもして気分をさっぱりさせようと、以前の埃だらけな教室へと足を運べば、相変わらず陰気臭い空気が紗夜の肌に纏わりつく。 どうにもここ最近は、らしくもなくずっと千聖のことを考えてしまっていると、紗夜は一人笑いながら椅子に腰をかけた。「あなたはもっと、演技が上手なんじゃなかったの? 白鷺さん」 人に頼りたくないのなら、その演技力とやらで最初から自分を突き放せば良かったのに、どうやら嘘は苦手らしい。酷くアンバランスなそれは、白鷺千聖らしくないものだった。ふぅと重たい息を吐きながら軽口を溢せば、扉の方からこつりと指でノックする音が聞こえてくる。「…………悪かったわね、演技が下手で」 そう面白くなさそうな台詞と共に現れた人物へ、なんてタイミングの悪さなのだろうと眉間に皺を寄せれば、相手は真逆の態度で愉快とばかりに楽し気に笑っている。「……話があるの。今、いいかしら?」「どうぞ」 内心では、私を散々避けたのは白鷺さんでしょう? と反論しそうになったところを紗夜はぐっと堪えた。ありがとうと心地のよいソプラノ声で御礼を言われれば、反論をする気持ちなぞあっという間に消え去ってしまうのがずるいところだと思う。「ありがとう。好きよ、紗夜ちゃんのそういう優しいところ」「それは……、」 とりあえずいつもの流れで訊き返してみれば、ふわりと穏やかに微笑んだ千聖の表情に、特に自分がからかわれている訳ではなく、本心からそう言われたのだと察しはついた。 しかし、次に続いた千聖の言葉はあまりにも紗夜の予想外だったが。