不器用ながらも、真剣な表情で黙々と手当てをする陸を、天も黙ったまま見つめる。「……俺のせい…?」 「…え…?」黙り込んでいた陸がポツリと口にした一言に思わず顔を上げる。顔を上げて見た陸はゆらゆらと瞳を揺らしていて天の方を見ようとはしない。「…俺のせいだよね…。」包帯を巻き終わった天の手を両手で優しく包み込んでその手をジッと見つめる陸の視線に気付くと、反射的に口を開く。「違う。陸のせいなんかじゃ無い。」そう言うと、陸は眉を下げて泣きそうな顔をして俯いた。「天にぃ、違う…全部俺のせいなんだよ…。」俯いたまま陸は続ける。「あの日、俺が天にぃって呼んだから…それを聞かれてて…だから、この傷は俺のせいで…天にぃのせいじゃ無いんだ…。」 「陸……。」すべてはあの歌番組の日から始まった。 注意散漫だったのは天も含め、あの場に居た誰もがそうだった。だから、陸1人が悪いわけでは無いのに、全部自分が悪いと責めている。 ただ、兄を兄と呼んだだけであるというのに、なんて皮肉だろうか。「陸、悪いのは陸じゃない。全部藍沢直哉だよ。」そして、僕だ。と口には出さずに、心の中に刻み付ける。「……そうかな…でも、俺が無力だったことに変わりはないよ。」言葉を掛けても陸の表情は晴れることはなく、続けて話す。「…どんなに一生懸命訴えても、何1つ届かなかった…。俺が何も出来なかったせいで、あの人に天にぃや皆が傷付けられたらどうしよう…怖いよ…天にぃ…。」自分が傷付けられることよりも、誰かが傷付けられることを何よりも恐れている陸は、悲しい程に優しい。 天の知らない間に、嘘の吐けないこの弟が、どれだけの優しい嘘を重ね、時には自分すらも騙して、必死に頑張って、虚勢を張ってきたのかを、本音を聞いている今ようやく知った気がした。「…何も出来なかった、なんて、そんなことは無いよ、陸。陸が傷だらけになって頑張ってくれたから、僕は今怪我もなくここに居る。楽や龍だって買い物に行くことが出来る。自分で頑張ってきたことを、自分で否定するようなことはしないで。…それに、藍沢直哉にこれ以上好き勝手をさせる気は無いよ。僕の言うことが信じられないの?」 「天にぃ…。」