「苦しい時間はそんなにずっとは続かない。君の場合は持病もあるから少し人より長くなってしまうかもしれないけれど、苦しい時間必ず終わる。そう覚えていこう。少しずつでいいよ。歌う楽しさを思い出して?君は、なんの歌が好き?」 「好きな・・・歌・・・」ゆっくりと、目を開ける。 その先に、なぜか医師の姿ではなく、たくさんのペンライトが見えた気がした。 お帰り!! 頑張って!! たくさんの声がきこえてくる。 あたたくて、優しい声援。 大好きっていう、気持ち。「RESTART POiNTER…」自分たちの、2度目のスタートになった曲。再スタート。何度だってもう一度スタートできるんだと、教えてくれた大切な曲。「ああ、それはいい曲だね。私も好きだよ」 「先生・・・知ってるの?」 「もちろん。最初はね、娘の影響で聴くようになったけれど、今では私の方が娘よりファンかもしれないよ?」冗談めかしてそう言った医師に、陸はつられたように笑みを浮かべた。「そう、君には笑顔が良く似合う。少しずつでいい。怖がらないで、歌ってみようか。歌うことが怖くないと分かれば、そこからきっと世界が広がる」 「はい」少しずつ、戻れるように…(待ってて・・・必ず・・・)気持ちが、前を向き始めたのが自分でもわかった。 けれど、「え?九条さんが倒れた?」病室に戻ってきた陸の耳に、一織の声が聞こえてきた。 その名前に、ビクリと体を揺らす。(な、に?)けれど、同時に聞こえてきた単語に、恐怖よりも不安が広がる。 倒れた?誰が?何があったの? 一織の顔に、若干の焦りが滲む。 それを見つめながら、陸は入口に佇み、それ以上中に踏み入ることも出来ずにいた。(ねぇ・・・大丈夫なの?あの人は・・・大丈夫なの?) 「わかりました。なにか動きがあったらまた連絡をください。ええ、こちらは大丈夫です。では…」そのままケータイを切った一織が、そこでようやく入口に陸が立っている事に気づく。 まずい!! 明らかにそんな顔になった一織に、「ねぇ?なに?どういうこと?」陸が一歩、近づいた。