天はぽつりと、呟きながら、観念したように自身のポケットに手を入れると、何かを取り出した。陸は少しだけ瞳を開いたが、まだ瞼は伏せたままその天の手の中にあるものを見つめて、小さく微笑んだ。「…オレのお気に入りだったのに」 「一度捨てようとしたのに?」 「それは、そうだけど…」天から日記の中にも出てきた、13歳の誕生日に家で天からプレゼントされた木製の2匹の子犬のキーホルダーを受け取って、陸は懐かしげにそれを見つめた。「………天にぃのせいにできてたら、追いかけなかったよ。恨んで終わってた」 「え…」 「何もかも、天にぃがオレを嫌って、病気のオレに嫌気がさして、お店の経営が上手くいかなくなった父さんと母さんに見切りをつけて、それで、出ていったんだって、思い込んで、天にぃをただ恨んでしまえたら、もっと楽だった。全部天にぃが悪い、オレだって、あんなに頑張ってたのにって。天にぃだって、病気は陸のせいじゃないよって、あんなに言ってくれてたのにって」陸は天の肩から身体を起こすと、ぼんやり、宙を見つめながら語り始める。天は呆然としながら、そんな陸の感情の読めない横顔を見つめることしかできない。「陸…」 「……天にぃと、再会して。最初、無視されて。何度も、天にぃはオレのことが、やっぱり嫌になってて、ステージに魅了されてて、オレは、その天にぃが魅了されたものを確かめなきゃって躍起になって。……苦しくて」 「…」 「………その度に、その日記の、最初のページを読み返してた」 「…え……」