「ジャイアントだってそうだ。ヒルジャイアントなら兎も角、あのマウンテンジャイアントにとっては、町の城壁なんて薄い板同然だぞ、きっと」「ああ、初めて見たが……高ランクの魔物ってのはとんでもないな」 町を守る兵士達は、町の近くに生息するゴブリン等低ランクの魔物以外は、基本的に目にする機会は無い。ランク7や8のような高ランクの魔物は、おとぎ話や吟遊詩人の歌にしか出てこない存在だった。 詳しい生態や能力を兵士達が知らなくても、無理は無い。 更に物見の塔に配属される兵士は、比較的視力が良い者達や視力を補助する魔術の使い手が選抜される。しかし、優れた者は城壁の門周辺に配属される。そのため、この物見の塔のように壁の半ばにある部署には二キロ以上離れた場所に居るヴァンダルーが何をしているのか、詳細に観察する事が出来る者はいなかった。「だが、町に戻って来ないのは、やっぱり魔物達を混乱させているのは彼だからか?」 非常事態を知らせる警鐘は響き渡っている。離れていても聞こえているはずだが、ヴァンダルーは草原から動く様子が無い。それを奇妙に思った兵士の一人が、じっと目を凝らしている同僚に訊ねる。「ダニエル、どうなんだ?」「特に何かやっているようには見えないが……いっそ、戻って来ない方が良いかもな」 生命属性魔術で視力を強化しているダニエルと言う名の兵士も、先程まで近くに居たファングの巨体から、残った少年がヴァンダルーだと見当を付けているに過ぎない。「今から戻ろうとしても、魔物の群れとかち合うかもしれないし……町から離れた場所に一人でいる方が、生き延びられるかもしれない」 ダニエルが口にしたのは、事実である。暴走している魔物は本能的に人間を襲うため、大勢の人間が居るこの町をまず狙う。たった一人で草原に居る少年には、目もくれないだろう。「……それもそうだな」 大物の魔物が何匹も脱落したが、まだまだ魔物の群れは健在だ。ランク7のオーガーキングや、トロールバーサーカーがいるらしいと言う報告もある。 兵士達には、モークシーの町と自分達の運命は風前の灯のように思えた。「ん? なんだ、あの連中……あいつ等っ、何をやってるんだ!?」 だが、ダニエルが突然大声を出し、怒りに顔を歪めた。「どうした、何が見えるんだ!?」